2,うまい味を出す「うどん粉」

2,うまい味を出す「うどん粉」

 うどん粉が小麦を製粉したものであることは周知の通りですが、現在ではあまり耳にしません。今は一般に小麦粉と呼んでいます。昭和初期頃までは小麦粉のことをほとんどの人が「うどん粉」と呼び、遠い昔より小麦を粉にして「うどん」を食べてきました。

 約400年前、室町時代後期に記された日本最初の農法書があります。伊予の国(現在の愛媛県)土居清良(どいきよたか)という人のことを書いた「親民鑑月集」(清良記ともいう)の第七巻が農業書で、その中に麦24種、豆32種、米96種などと多種類の農作物の栽培法が記されています。このことから、当時より農民が品種改良して最良な高カロリーの品種を作出し、また安定して多収穫できるように努力していたことがうかがえます。

 高カロリーの品種とは、たとえば、麦の中に含まれるタンパク質量が多い品種のことで、「うどん粉」が出 す「うま味」は、このタンパク質量に起因しています 。

二つのタンパク質

 小麦粉中のタンパク質は種類が非常に多く、いろいろな分離法でこれまでに80種類以上のタンパク質が分離されています。量的にはグリアジンとグルテニンで全体の80%を占めています。このグリアジンとグルテニンは粘性と弾力性があり、小麦粉に水を加えて捏(こね)っていくとグリアジンとグルテニンが化合して独特の粘弾性をもったグルテンが形成されます。

グリアジン × グルテニン = グルテン

 グルテンはグリアジンとグルテニンの両方がないと粘弾性のバランスがとれたグルテンにはなりません。グルテンは小麦粉中の特殊な二つのタンパク質から形成されるものですが、小麦粒のままでは両タンパク質は化合できず、粒を細粉し水を加えて捏り合わせることによってグルテンとなるのです。このグルテンは小麦粉中からは取り出せますが、ライ麦えん麦トウモロコシなどからは取り出すことができません。それは、例えばライ麦にはグリアジンと同じタンパク質はありますが、グルテニンがありません。他の穀物の粉にはこの二つのタンパク質が含まれていないのでグルテンは取れないのです。

「うどん」のうま味

 シコシコした腰のある歯ごたえの良い食感はこのグルテンがかもし出し、うどん生地中に形成されたグルテンは、捏り上げた生地を特定時間熟成させることによって、前記したグルタミン酸ナトリウムアミノ酸などと化合・活性してうま味が加わります。更に食塩を加えることによって食感とうま味が助長され、この相乗効果が「うどん」のうま味なのです。

炊飯で「むらす」わけ

 ちなみに、米のもっているうまさの一つであるグルテン(粘着性をもった澱粉質の変質したもの=取り出せない)は、ご飯を炊く時に米から炊汁に流出します。この水分をもう一度米の組織の中に再吸収させます。これが、いわゆる「むらす」・「蒸す」・「後熟」という操作でご飯が炊きあがると、その後フタをしたまましばらく釜の中にご飯を置いておきます。その時に流出したグルテンが、米の中に再吸収されてカロリーの高いうまいご飯が炊きあがるのです。したがって、ご飯のうま味もうどんと同じくタンパク質量に起因しているものです。