ユキノシタ Saxifraga stolonifera
ユキノシタ科 ユキノシタ属
多年草
花期：５-６月
本州、四国、九州の陰湿地や湿った岩場などに自生する半常緑の多年草です。葉は全て根生草で全体が長い赤褐色の毛で被われ、長い葉柄があり腎臓形で基部は心形となっています。葉の辺縁は浅く裂け小さい鋸歯があり、上面は暗褐色または暗緑紫色を帯び、葉脈に沿って淡緑色または白く、その間に赤紫斑があります。また、茎の基部から細長い糸状の葡匐枝を出し、長く地上を這って新しい株を作ります。 初夏の頃、高さ20〜50cmの花茎が直立し、特徴ある白い小花を多数円錐花序につけ、花弁は５枚で上方の３枚は小さく濃紅色の斑点があり、下方の２枚は大きく垂れ下がります。
ユキノシタは名前の由来どうり寒さに非常に強く、雪の積もった下でも生じ、日陰でも生じることができます。湿気を好み田舎の井戸端や露地裏の石垣でよく見かけられ、また、庭園にも植えられてきた馴染み深い植物です。
腫瘍、火傷、凍傷には葉を火であぶって患部に貼り、小児の百日咳、ひきつけなどには葉のしぼり汁を飲ませ、ウルシカブレには葉を塩で揉んで患部に貼り付け治療してきました。成分は無機物で硝酸カリウムと塩化カルシウムが知られています。
このユキノシタの薬効を鮮明に覚えています。
私の子供の頃は今日のように電気コタツ、電気炊飯器、ガス風呂、ホットプレートなど何一つ無く、一切が火を直接使う方法でした。
ご飯を炊くにもカマドに薪を燃やします。お風呂も同様で、コタツは掘りコタツでカマドや風呂炊きの時に薪を燃やした”オキ”を”十能”で取ってコタツに移して入れ、長持ちさせる時は炭を加えて暖をとってきました。それで、小さな火傷は日常茶飯事でした。火傷するとすぐに家の裏の石垣に生えているユキノシタの葉を摘み取り、火であぶって手当します。痛みは何時しかなくなり、朝晩貼り替えて、２〜３日すると治ってしまいます。
また、裏山で「サムライごっこ」の遊びをします。各自思い思いの名刀を現地の細い手ごろな立木を見つけて作ります。刀のツカの部分は樹皮が付いたままで、刃の部分は樹皮を削り取ります。刃部は生木のため樹液でしっとりしています。そのできたての刀で”チャンバラ”し、友達の顔を切った（撫でるように切る約束になっている）翌日、友達と出会うと顔がふっくらと赤らんでいます。特にホッペタがプツプツと少し腫れて痒いといいます。ぼくは瞬時に昨日山で作った名刀はウルシの木だったのかと感づいきました。そこで早速、家の裏の石垣に沢山生えているユキノシタの葉を両手にいっぱい摘み取って、ザルに入れて水洗いしてからすり鉢に葉を入れ塩をひとつまみ加えてよくすりつぶし、それを顔一面にペタペタ貼り付けて、手ぬぐいで目の位置の所に穴を開け、覆面の包帯をしてやりました。この方法は前の年ぼくの兄がウルシにカブレた時に母が治療したのを手伝って覚えた方法で、即座に治療してやれたのです。また、このウルシカブレの療法として”沢ガニ”を同様にすりつぶして使う方法も記憶しています。
当時ぼくはウルシの木であろうと何の木でも、手ごろな素性の良い木で刀を作っていました。その時両手が樹液でべたべたします。その手で汗をかいた顔を撫で、繰り返し遊んでいましたがカブレたことは一度もありませんでした。しかし、この事故以来、何か責任を感じ子供ながらしっかりとウルシの木を覚えました。”サムライごっこ”の時はいつも得意に大将ぶって「この木で刀を作ってはいけないぞ！」と威張ったことが懐かしく思い出されます。
石垣のユキノシタは薬用としてはもちろん、山菜（野菜）としても重宝がられてきました。
ユキノシタは全体に毛が生えて、葉を摘み取る時に手に”ゴソッ”と感触するので何やら”コッソッポイ”山菜に思われますが、料理するとびっくりする程軟らかい材料です。味はくせのない優れもので、各種の料理に向く万能野菜です。
家の裏の石垣は薬草を並べた薬局であり、自然野菜の純粋な八百屋さんでもありましたが、今は家の建て替えでコンクリートの壁になり、薬局も八百屋も姿を消し昔の面影も失せてしまいました。