ツリガネニンジン Adenophora tripylla var.japonica

キキョウ科 ツリガネニンジン属
多年草
花期:8-10月

 日本以外でも樺太から中国まで分布し、変異の多い多年草で、葉の形や付き方に変化が多く、全体に柔らかい毛があり、秋に釣鐘形した青紫色の花を円錐花序に多数咲かせます。ツリガネニンジンの名前の由来は、この釣鐘形の花と、根がチョウセンニンジンに似ていることから、このふたつの特徴を合わせて名付けられたといいます。昔から生活の糧のひとつの山菜として親しまれてきました。

 山菜としての若菜(若芽)は、春先に他の草々が萌え立つ前に出芽します。若芽の茎は軟らかくて摘み取り易く、手折ると切れ口から純白の液が出ます。この液は「乳」に似て「チチ」を「父」の意に、「父」は方言で「トト」と言うことから、「トトキ」、「キ」とは花が咲く頃には茎が木のように堅くなるので「木」の意で、「トトキ」と誠しやかに聞いたことがあります。桐生地方でもトトキと呼んでいます。

 山菜を賞でる俗諺に「山でうまいはオケラにトトキ、嫁に喰わすもおしうござんす。」とうたわれて、当時では大変なご馳走であったことが伺われます。この俗諺の「トトキ」は、山地の取って置きのご馳走の逸品の「トッテオキ」から「トトキ」と方言されたともいいます。いずれにしても、若菜はだれにでも賞味される山菜の味の持ち主です。

 年が明けて節分が来る頃、裏山に暮れの年越しソバに使った自然薯の掘り残しを掘り出しに行きます。まだ寒風が肌を刺します。朝の木漏れ日を受けた山の斜面はもう春の兆しを覗かせています。そこ此処に枯草の合間からトトキが新芽をツンと広げています。”ふと”どちらを先に取ろうかと一瞬戸惑います。

 自然薯は寒風にツルを飛ばされ、有り場所が見つかりにくいため、前年掘り取るときに他の人に見つからないように目印をしてあります。2〜3本掘り上げて一息つきます。顔に滴る汗を拭くと、何とも心地良い気分に浸ります。
 勢いにまかせてトトキ摘みに移ります。トトキは少々広い範囲をゆったりと歩を進めながら摘み取ります。特注の細長い竹カゴに、自然薯とトトキのずっしりとした重みを感じます。帰り際にトトキの根を少々掘り取ります。このトトキの根は、自然薯掘りに使った特製のエンピ(細長いシャベル)があるので簡単に掘り取ることができました。

 夕餉は、早速、トトキのゴマ味噌和え、自然薯と若菜の天ぷら、それに自然薯で麦飯の山かけ、と献立は上々。
これぞ正真正銘の自然の恵みの精進料理(自然食)の出来上りです。嫁を主役に一家団らんの味わいは格別なものでありました。この幸いを、隣人友人大勢を呼び寄せ分かちたい....。

 今、このような食事ができる環境が自宅のすぐ裏にあることを喜びながら、夕食後、採取してきた「トッテオキ」の根を、明日コーヒーを作ろうと、ザルに洗って置いておきます。明日のコーヒータイムが楽しみです。

=トトキコーヒーの作り方=

1.根をコーヒー豆のくらいに細かく均一に切る。
次に焙煎するが、この時切った根を干して乾燥してから焙煎する場合と、生のままから焙煎する場合とがある。
この二品は、味が少々異なる。
2.焙煎は、ホットプレートを使うと熱の強弱がコントロールできるので便利である。
焙煎は粒の中心まで十分に焦げ上げるので、少々時間をかけて仕上げるのが”コツ”である。
強火で短時間で仕上げようとすると、外側だけ焦げて炭化してしまうので注意すること。
 
3.粒搗き。焙煎が仕上がった粒を粉状に搗くが、豆より軟らかいので簡単に粉状になる。
 
4.トトキコーヒーの入れ方は粒が粉状であるので濾紙を使うと良い。