モミジガサ Cacalia delphiniifolia

キク科 コウモリソウ属
花期:8〜10月)

山野の樹木が若芽を吹き出し春の柔らかい日の光をあびた野草達が、若草色にキラキラと輝くようになると、高く伸び立った杉林の中では、厚く積もった杉の葉を突き抜き、あちらこちらに集まるように、モミジガサの新芽がツンツン伸び出ています。

その新芽の姿は矢の根かモリの先のようにも見えます。よくもまあ、この柔らかい若芽であの厚く積もった針先でこしらえたような杉の葉を突き抜き出たものと、その力強さにはつくづく感心いたします。

このモミジガサは、湿り気のある樹陰を好み低い山地から二千メートルくらいの高山にまでも生育している多年草です。

8月から9月ごろに、高さ50センチから1メートルに直立した茎の枝先に白色の細長い頭花が円錐花序に咲きます。根茎は短く、若芽の茎は暗紫褐色をおびて時には緑色のものもあり、新葉は茎先をコウモリガサをつぼめたようなかっこうで包んでいます。この葉は茎が伸びるにしたがって下方からモミジの葉形に大きく広げていきます。このような姿を名付けてモミジガサとしました。

私達の地方では古くからキノシタと呼んでいますがこれは樹陰にこのんで生えるところから付けられた名です。またの名をトウキチと言います。こらは豊臣秀吉の青年時代の名の木下藤吉郎に結び付けた洒落で、まことにユーモアのあふれる名称です。

田舎の山地の樹陰で生まれたこのキノシタ・トウキチも、食卓の天下を取りたいと力強く伸び出ているようにも思えますので、ぜひ皆様方の食卓の天下も取らせてあげて下さい。

* 料理と性質 *

このモミジガサはキク科の仲間のフキのような香りとアクをもっていますが、ニガミはなく山菜としての優れた性質を備えています。下葉を広げない新芽立の頃に摘み取ったものはアクは少しも感じず、かえってうまみに思えます。

このころの若芽は、万能形の山菜でつくり野菜をしのぐくらいですから、この時期を逃さず摘み取りたいものです。しかし、若芽は生育が早くすぐ下葉を広げますが、少々伸びすぎたものでも、手折れる柔らかいところを摘み取れば十分利用でき、それぞれの料理法と食べ方があります。

  • 生のものは天ぷらにすると、香り・口あたり共に山菜の王様です。
  • 汁物の実にする場合には、さっとゆでて冷水で20〜30分さらしてから用いれば、これまた、山菜の王様の貫禄を発揮します。
  • あえ物料理万能、ゆでてすぐのお浸しなどは数ある山菜の中でも最高品です。
  • その他、マヨネーズともなじみ、油炒め、煮びたしなども結構いけます。
  • 多く採取できたならば塩漬けにして保存しておくとアクも抜けます。この塩蔵するものは少々伸びすぎたものが適しています。

*塩蔵品の生のままの食べ方*

塩抜きを十分にしてから1センチくらいに切り刻み、かたくしぼって水を切ります。それに醤油、ミリン、化学調味料もしくは細切りにした出し昆布を入れて漬け込んで、四、五日してから食べると実に美事な香り高い山菜の漬物となります。

このように優れた山菜ですからいろいろと工夫してわが家の自慢料理をお楽しみ下さい。