クズ Pueraria lobataマメ科 クズ属) 日本各地の山や野原の特に傾斜面に普通に見られるつる状の多年草で、全株に粗毛があり、茎を長く伸ばして他の物に絡み付きます。巻き付かれた木がそのまま大きく育つと、渦巻状のコブができ、そのような木を時々見かけます。 クズは中国はもちろん日本でも古くから使われてきた漢方薬で、よく知られている葛根湯(カッコントウ)です。これは、根の皮を剥いで適当に切って乾燥したもので、漢方では発汗、解熱、緩和薬に、普段健康な人の頭痛や肩こりを伴う感冒に卓効があり、乾性の皮膚病、小児はしか、神経痛、結膜炎、大腸カタル、蕁麻疹などに用いられると薬事書に揚げられています。ただし、胃の弱い虚弱体質の人には用いない方が無難とされます。 肥大した根に含まれるデンプンを取り出して乾燥させたものを”葛澱粉 (クズデンプン)”と呼び、生薬として滋養剤や結合および崩壊がよいことから、各種の錠剤賦形薬として使われます。 生薬の葛根(クズネ)の産地は、大阪、三重、奈良、富山、福岡、熊本などで、葛粉(クズコ) は、奈良、京都、福井、高知、福岡などが良質品の特産地です。 ところで、桐生地方にも普通に自生し、山地の開墾畑の端や土手際によく繁り、時には厄介者扱いされます。直根は深く、つる状の茎は地面を這って伸びます。伸びた葉の所から新根を細く出して地面に潜らせ、短期間で根を肥大させます。 私が小学校に入学して間もなく第2次世界大戦がしだいに激化し、私の家に東京から戦火で焼け出された親戚の一家6人が疎開して来ました。当時生活物資はほとんどなく、食事は大きな2升炊きの鉄釜に大根を3分の1くらい(1本を3回に分けて食べる)と、太めのサツマイモ(時にはトコイモ=サツマイモの苗を取った後のイモ)1本を細かく切って入れ、それにコウリャン、最後に1升ビンで搗いたお米を茶飲み茶碗で1杯ずつ計って入れ、釜に目いっぱい水瓶から柄杓で水を入れて炊き上げたものでした。これをうちの家族7人と東京の家族6人の13人で食べました。お米とコウリャンはいつも茶碗1杯ずつで、そのほかの葉ものやイモは時々変わりました。たまに、お米やコウリャンが小麦粉やサツマイモの粉で作ったダンゴに変わることもありました。 そんな中である日、東京のおじさんが、私に「クズの葉とタマンバラ(サルトリイバラ)の葉を摘んで来るように」と言います。早速、山に取りに行きます。その場所は普段の遊び場ですので、たちまち沢山取れ持って帰ります。 毎日々々おじさんは沢山タバコを巻きます。3〜4日すると、ミカン箱くらいのブリキでできた入れ物にいっぱいに貯ります。すると、次はそのタバコの両端を切ります。出来上がったタバコは紙を細く切ったテープ状の帯で10本づつ束ねられ、そして、ボール紙で作った箱に200束ずつ入れられます。この箱を10個くらい風呂敷に包んで、朝一番の列車で桐生から東京に売りに行きます。帰りには仲間が拾い集めた”吸いがら”を買って来ると言います。 70歳を越えた今でも土手のクズを見かけると、ふと、幼い頃の葉摘みのことが思い浮かびます。 今日、これを書いても当時の生活が理解できる若者が何人いるでしょうか。 育て上げた自分の倅ですら、当時の昔話をすると、目をキョトンとさせて聞き入るのが現状ですが、過ぎ去った生活実態は懐かしい思い出として、二度と戦争の世の来ないことを願いつつ。自然の恵みと共に... 。 |
|