イカリソウ Epimedium grandiflorum var.thunbergianum(メギ科 イカリソウ属) 日本では、本州の東北地方以南の太平洋側から四国などの丘陵、山林、山地に自生する多年草で、湿気で潤った土地を好み、陽当りの良い乾いた土地には見られません。 桐生市の梅田地方では純白花が咲き、西に尾根を一山越えた川内地方では、紅紫色の花種に、また渡良瀬川を北上し赤城山の東北に位置する袈裟丸山系には、黄白色の花が見られます。 イカリソウの名前の由来は周知のとおり、花形が錨に似ていることからつけられました。 イカリソウの生薬名を「淫羊カク=インヨウカク」と言いますが、この名前は中国産のホザキノイカリソウなどにつけられた中国名です。ホザキノイカリソウは江戸時代後期に渡来し栽培されました。日本にも数種のイカリソウが自生し、各種とも「淫羊カク」と同様な成分を含有していることから、淫羊カクに当てて呼んでいます。ホザキノイカリソウの花弁には長い距がありませんので、花は錨の形をしていません。 イカリソウの仲間ホザキノイカリソウ E. sagittatum MAXIM
イカリソウは遠い昔、中国の四川省の北部で羊飼いによって薬用効果が発見されたと伝承されています。 第二次世界大戦後しばらくした頃、中国大陸から復員して来た元軍医さんが隣組の青年団の若者達を集めた会合の話の中で、「これから日本を復興させるには、力強い若者が必要である。失われた同胞に報いるには再建した町を早く見せることである。それには活力のある働き手を増員しなくてはならない。したがって、世の男性諸君の奮起が非常に望まれる。そこで外地での耳寄りな話を伝える。」と言って、淫羊カクの説話をしました。それは、私が中学1年の夏休みの時だったように思います。隣の家の座敷が会場で、その隅のタンスの陰で小さくなって、同級生二人と身体を硬直させて聞き入りました。 昔から、中国の四川省北部では羊が沢山放牧され、そこの雄羊は1日に百回も交尾すると言われていました。その精力の源は何なのかと調べたところ、その地方にはカク(ホザキノイカリソウ)という草が沢山生えていて、そのカクを羊が好んで食べることで精力絶倫になっていた言います。このような事柄から、精力絶倫の雄羊を「淫羊」と呼び、薬草の「カク」を合わせてホザキノイカリソウの漢名(生薬名)を「淫羊カク」と名付けたと、李時珍の本草綱目に記されています。 元軍医さんの話は、今で言うエッチ話的話術でした。先輩達は目の玉をギラギラさせながらもお腹を抱えて大声で笑って聞き入っていました。 最後に「桐生地方にも裏山に行けば沢山自生しているので、採取して、諸君等もせっせと喰うが良い。もしこの薬草を知らなくば、明日取りに連れて行くから来い。」と言いました。 時も流れて60歳を通過した先日、異業種会の年1回の会食の席で、これまた元軍隊で薬事関係が任務だった、現在薬局を営んでいる先生を講師に招いた講演で「淫羊カク」が講話されました。補精薬としての薬理効果が今日科学的に解明されたといいます。日本産の「イカリソウ」の葉茎から取り出した物質を動物実験した結果、これを与えた雄動物の精液が増量することがはっきりと科学的に裏付けられたといいます。近年、東洋医学が再認識され、西洋医学や近代科学の粋を結集した研究で、数々の新しい事柄が解明され、私達を長寿の楽園に導いてくれる昨今です。 この新しい情報、成果を十分に満喫されるのもいかがなものでしょうか。 陽光の射す潤った林内の草々の合間にイカリソウは、ハート形の葉を重ね合わせながら風に揺らぎ、あたかも私達を自然の世界へと招いているかのように生じています。 イカリソウは根強く、生育の旺盛な薬用植物です。 |
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