ホタルブクロ Campanula punctata

ホタルブクロ Campanula punctata(キキョウ科 ホタルブクロ属)
多年草
花期:6ー7

 日本各地の山や野原に生える多年草で、全体に短い粗毛が生え、地下茎は短く浅く横に延び、根出し葉は長柄があり卵心形でスミレの葉を思わせます。上方の葉腋に花柄を出し、その先に蕾を一個ずつ付け、やがて大きな袋状になり、夏頃に下方から順次咲かせます。花冠は4〜5cmの釣鐘形で、白色または淡紫色で濃い斑点が多数あります。 ガクの裂片がひとつおきに反り返るのが特徴で、仲間のヤマホタルブクロ(ホンドホタルブクロ)は裂片は反り返りません。

 ホタルブクロは日当りを好み、強健な性質を持ち、砂礫の土手や路ばたなどにもよく見られます。土手や路ばたは4〜5月頃に草刈が行われますが、その時、雑草より丈高く伸び立ったホタルブクロも一緒に草刈機で刈り取られてしまいます。しかし、根強いホタルブクロは残された茎から再度新芽を増やして出し、7〜8月頃にはしっかりと成長し、増えた茎に多数の花を咲かせます。この強健な性質を活用して、山薬愛好家が本当に見事な盆栽を仕立てています。

 私達も庭先の片隅や軒下の犬走りの縁に土手から掘り取ってきた根茎を並べて定植し、伸び立った茎を土手の草刈をする頃に、15〜20cmの所で切取り、再度新枝を出させて矮化状に仕立てて庭飾りを楽しんでいます。この方法は野生のものより開花を遅らせて栽培され、ひと時は風情が増します。この手法は菊の盆栽作りの時に、一本の茎に多数の枝を作り出す方法と同じです。
 身近で育ててその生長を観ると、ある日、葉腋に花芽が生まれ、日増しにふっくらとしてきます。そしてある時、その蕾がホタルを連想させる姿になります。ガクの方を頭側にしてあたかも葉腋に甘い水でもあるかのように葉柄は口先に、ガクは手足に、幼花冠部を背に、ゆったりと甘い水を存分に吸っている様子に見立てられ、やがて、そのホタルは甘い水を満喫し大きくふっくらと袋状に変身(?)します。ホタルから化身した袋状の花冠はホタルの寝袋なのでしょうか。葉腋に釣り下がった花冠の寝袋の中でホタルは夜の活動を待って昼寝でもしているのでしょうか....
 ホタルブクロの名前の由来、いかがでしたか....

 「ホーホーホタル来い、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ...」幼い頃の童謡です。
 夕暮れを待ち、お勝手で用が済んだ大きな固い”渋ウチワ”を持ち出して、自宅前のジャリ道の向いにある田んぼの掘り割りの草むらでホタル追いに夢中になります。ガキ大将は何事も友達の倍の行動をしないと座がなくなります。疲れをひた隠しに一息します。向こうの草むらにも隣家のグループの一団のホタル追いがおぼろげに見えます。当時の子ども達とホタルの関係は、ホタルを虫カゴに入れて観賞することではなく、無数に飛び交うホタルをウチワで追い回し、「ホーホーホタル来い、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ!」と大声で呼び、自分達の草むらにホタルを多く寄せ集めるグループ合戦の遊びでした。
 掘にはヤマトシジミ貝が沢山いて、冬期にはシジミ取りに手足を真っ赤にして遊びました。

 時刻も遅くなり、存分に遊び、意気揚々と友達を従え帰宅します。勝手口に帰り着いたとたんに母から「ウチワをよこしなッ!」の一喝、瞬間両手を見ます。持っていません!母は火をおこす急用ができたのでしょう。大将は、やぶれて少々骨の出たウチワを含め5〜6本あったもの全部を友達に貸し出して家には一本も残していませんでした。ベソをかきながら草むらに小走りで取りに行った思い出も...

 今、その場所は大きな住宅が立ち並び、「ホタルの宿」だった川端にはネコヤナギが無造作に伸び廃虚となっています。
 「ホタルの宿は川端ヤナギ、ヤナギおぼろに夕闇よせて.....」と唄われた童謡も実感は失せてしまいました。

 私達の生活は便利に発達し、農業も化学の進歩に促されて大地にたっぷりと農薬が散布され、いつの間にか軒先まで飛び交っていたホタルは姿を見せなくなってしまいました。
 しかし、近年その結果に気付き、自然指向が高まり、各地の町村でホタルの人口増殖が成功しています。この再生に際し、今までは生物学者やそれに付随する特定な方達がホタルを科学してきましたが、一般の人々が参加し、自然の中のホタルを深く理解でき、未来への贈り物をひとつ取り戻すことができました。私達の町にも立派な自然科学者が大勢いたことを誇りに思います。もっともっと失われた環境を取り戻し、水の流れ至るところにホタルが飛び交い、孫と一緒にウチワを振り回し、ホタル合戦の技術を伝授できる日ももうそこまで来ています。

 春を待ちかねて、家族総出の山菜採りは我家の毎年の行事です。今年は孫を背負うラックがひとつ増えます。それのため、背中の都合で山菜採りの目的地は野原のある近くの山地になります。
 春一番の若菜(山菜)は活力に満ち、滋養に富み、摘み取られても数日で追芽が萌え立ちます。摘み取られた刺激は株の活性に良好に働いて株を肥大させます。
 ホタルブクロは一場所に大量に生えてなくて、他の山菜と一緒に摘まれます。この季節に周囲に生じる山菜たちは...
 クサソテツ、ミヤマシケシダ、イワガラミ、マタタビ(芽)、サルナシ(芽)、ウコギ、ニワトコ、タラノメ、ハナイカダ、タマブキ、モミジガサ、シオデ、タチシオデ、コウゾリナ、ギボウシ、ホタルブクロ、ツリガネニンジン、ミツバ、セリ、オランダガラシ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベ、ホトケノザ、ヨメナ、ノコンギク、シロヨメナ、ノビル、イタドリ、ユウガギク、ナンテンハギ、ヨツバハギ、ツクシ、ヤブカンゾウ...。
 旬の自然の幸は数えきれない程あり、驚くのは私達の地方だけでしょうか。